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R12
――爆弾が投下されたのは、いつも通りの昼下がりだった。
「お……お帰りなさいませ、ごしゅじん、さま」
僕は――、僕は、夢を見ているのかと思った。応接室の扉を開けたとたん目に飛び込んできたのは、凪。それだけならなんら不審がることでも驚愕することでもない、当然のことだ。だが、彼女が漏らした言葉とその恰好が、僕のまともな思考を宇宙の果てまでふっ飛ばした。(やったあさよならホームランばいばいもう帰ってこなくて良いよ青春の白球!)
「きょ、あ。……ごしゅじ、さま。あの、その……っやっぱり恥ずかしい、よ……っ」
真っ赤な顔でうつむき口ごもる姿に眩暈。
凪の装いはいわゆる、メイド服、なるものだった。それは本家イギリスの格調高い給仕の制服でなどは断じてない。俗にまみれ一般大衆(おもに愚かな男性陣)の夢と希望と混沌を詰め込み圧縮したどこまでも不埒な、しかしそれゆえ理(おもに愚かな男性陣の)に叶った、男(こればかりはすべての生物学上オスに分類される人間をさす)の理性をがっくんがっくんこれでもかというほど揺さぶりどんなに強固で確固たる紳士を確立している者であっても例外なく籠絡しかねない最強武装である。まさに男の男による男のためのハートフルワールド。
使われている色は白と黒、アクセントのリボンと靴に濃い赤色。全体的にセーラー服を模しているらしく、あどけない凪に罪なほど似合っていた。校則違反だよと注意するのも馬鹿らしいほどのミニスカートと黒いニーハイソックスの間の白い素肌を危うく舐めるように見ようとしていた自分に自重自重と言い聞かせる。(見えそうで見えなさそうで見えてるチラリズムがなんて悩ましいマイハニー。そこだけ見せるくらいならもうすべて見せてくれたって良いんじゃないのと脳内裁判の結果、満場一致で即可決でありまして)
「ば、罰ゲームで、ね。京子とハルに、トランプで五連敗、しちゃって。それでこんな恰好……す、好きでこんなの着たわけじゃないのっ……」
羞恥に目を潤ませて凪が僕に詰め寄った。招いてもいない誤解を解こうと必死なのだろうが至近距離での上目づかいは反則だ。ああもう無理。思春期のオトコノコに自制なんてできるわけないでしょ。
「わかった、ぜんぶわかったから凪、」
可愛く無知な赤頭巾は狼さんに食べられて、そのあとどうなったんだったか。
「……食べて良いよね?」
きゃっ! と悲鳴を上げる凪をソファに沈めたけれど、僕の身体は到底鎮まりそうになかった。いただきます、ときちんとことわるあたりが正しき日本男児だ。
狼さんも赤頭巾も、きっと大満足なハッピーエンドだったんだろうなと独り考える片隅で、脳内裁判では可決されたもののやはりニーハイソックスはもったいないので脱がさないことを決意した。
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思春期少年はオオカミ少年 |
(ひゃ、あっ……きょうや、だめぇ……!)
(凪、違う)
(え……)
(ご主人様、でしょ)
(ぁっ、……ふ、あ)
(くす……たっぷりご奉仕しないと、許してあげないよ?)
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