ボンゴレが出来た経緯は、自警団だという。
現在マフィアと呼ばれているボンゴレ、自警団というものは見当たらないのだが、今の十代目はキッチリとその役割を果たしていた。




彼との連携で。








【快感中毒カメリア】








長い廊下を、黒いヒールが闊歩する音。
動くに連れてなびく、後ろに流されている藤色の髪。


ヒールの音がピッタリとある扉の前で止まり、その女性はそっと息を吐く。


緊張しているのか、または。








「……失礼、します」








向こうからの返事を聞く前に、私は中へと入る。


否、引き込まれたのだ。
彼によって。








「……っ、!!」


「おかえり。凪」








周りに並ぶ、難しそうな沢山の本棚。
黒いソファに、シックな机。


全体的にシンプルなこの部屋の主は、今私を抱き締めている彼である。






私は彼のぬくもりに、香りに安心しながらも、自分の立場を思い出して、咄嗟に彼の胸を押した。
顔を上げれば、彼は仕事の時のように何かを企んでいるような含み笑いをしている。


その顔につい赤面してしまうのは、一体いつからだろうか。








「…違、うのっ……報告、」


「報告ならこれで十分だよ」








ヒラリ、と私が任務について纏めた紙をちらつかせて、唇に寄せるその顔さえも、女の私から見ても妖艶で。


それでももがく私を、彼はさらに強く抱き締めて解放してくれない。








「っ……雲雀、様」


「………キミは本当に理解しないね」








そう言って私の耳に唇を寄せて、わざと色を含む吐息を含ませた言葉を私に囁いてくる。
時折、耳を食まれる。








「“様”はいらないし、“雲雀”でもない」


「……で、も」


「僕の言うことがわからないの?仕方ないね」








必死に首を横に振る私を彼は無視して、いつ開かれたのかもわからないブラウスの中から晒された首筋に唇を寄せる。


訪れるのは、電撃のような衝撃。












ボンゴレというマフィアの中にあり、しかし独立して存在しているのが風紀財団。
その風紀財団のトップが彼、雲雀恭弥。
私はボンゴレに所属しているが、ボスにより並盛の自警を任されている。


ようするに立場からすれば、彼は私の上司。
もう、初めて会ってから何年たったのだろう。
彼に初めて会ったとき、私は異性に対してあまり興味を持たないにも関わらず、目を惹いてしまった。


まさに、純潔な黒とは彼のことだろうと思った。
感覚が全て彼によって麻痺してしまう。


それは今でも変わらないのだが。






既に、私は彼に抱かれている。


いつだったかは最早覚えていない。ただ、双方の了承の上ではなかったことは覚えている。


私は、彼に抱かれた時に抵抗は微かにしただけで、ほとんど身を委ねていた。
無意識が意識に変わった。




私は、彼が好きなのだと。








「……っ、」


「我慢してるね。でも……」








僕は声が聴きたいんだ。








囁かれるだけであきらかに震えた私に、彼は手を滑らせる。
こうやって焦らして、焦らして、私に快楽を与え続けて、依存させていくのは彼の十八番。


ズルい、卑怯だと思う。




彼は、遊んでいる。
咲いている椿を、手で揉み砕くような感覚で。


それがとても、悲しい。
仕方ないってわかってて、彼は上司だってわかっていても、寂しい。悲しい。


貴方が好きだから。
貴方だけを、愛しているから。






私は自然と頬に涙を流していた。
彼は、眉を寄せる。








「……どうして、泣いてるの?」


「…うっ……ひっく……」








行為をやめて、私を抱き締めながら顔を寄せる彼に、私は首を振る。


こんなにも、自分を抑えきれなくなっているのは初めてだった。
こんなことを言ったら、彼を困らせる。諦らせる。


もういらない…なんてあるかもしれない。








「………嫌なら、しないよ」


「……っ、!!」


「僕もそこまで鬼じゃないからね」








抱き締めていた手がゆっくりと離れていく。
私は怖くなって、咄嗟に手を掴んでしまった。


彼は驚いて私を見ている。








「……嫌って言ったり、腕掴んだり…わからないね。キミは」








言われてもいないのに“面倒だね”と言われているように感じて、私は一段と震える。

しかし、手は離すことは出来なかった。

彼が、離れてしまう。








「…凪」


「や、だ…」


「僕が?」


「わからない…わからないよっ…恭弥は、私をどうしたいの…?」








真っ赤な椿は、依存性が強い。
見てくれに、香りに酔わされて。
周りを引き付ける。


私にとって彼は、そういう存在だった。
少しだけでもいいから、私についての本音が聞きたい。


邪魔なのか、道具なのか、暇潰しなのか。








「……キミに会って二回目の時に、キミを抱いた」


「……っ」


「あの時から、考えてた」








掴んでいた手は、いつの間にか強引に引き寄せられて、近くの壁に縫い付けられる。


何が起きたのかわからなかった。







「……あぁ、やっぱりキミの怯えた顔もいいね」


「………ふぇ?」








ニヤリ、と笑って言った彼に、私は思わず間抜けた声を出してしまう。
どういう意味か聞こうとしたら、ふいに唇を塞がれた。


彼は私を抱いてもキスだけはしなかった。
今までは。








「不安な顔も、火照った顔もいいけど、この顔もそそるんだよね。時間をかけたかいがあったよ」


「……時、間?」


「僕はね、欲しいものは手に入れるタチなんだ」








そこで、思考が止まる。




もしかして…遊ばれた?




理解すると一気に怒りが込み上げて彼から離れようとするが、女が男に力でかなうハズもない。


ぬるり、と肌を撫でられてでもいるような仕草にどぎまぎしてしまう。








「身体だけなら、キミを拘束して束縛して、今よりもさらに酷い悦楽に浸してあげたよ」








今でさえ中毒的なのに、さらに陥れることも出来ると宣言され、私は真っ青になる。


彼にかなう人なんて、いるのだろうか。








「逃げるとさらに追い詰めたくなるね。その顔は逆効果だよ」








耳を舐めあげられながら、私は必死にしがみついて彼の言葉に耳を傾ける。


聞き洩らさないように。
刻み付けるように。








「僕はキミの全部が欲しかった。身体も」


「……っ!!」


「心も、ね」








では、彼は。
私がこうして彼にすがりつくこの瞬間を、堕ちるのを待っていたということ。


まんまと、嵌められてしまった。








「……鬼畜…」


「誉め言葉だよ。……さて、結果はどうなったの?」








唇に触れそうな距離まで近付いて、でも触れてくれない。
含み笑いをする彼に、私は赤くなりながらも見つめ返す。




中毒になった私に、この距離が耐えられないことを彼は知っている。






思い切って私から唇に触れる。


そっと離すと、もの凄く満足そうな笑顔が見える。








『堕ちたね。僕の勝ちだよ』








そう言って彼は、中毒になった私を満足させてくれる快楽を与え始めた。

















椿。


香りも、形も、色も。


揉み砕かれた、花弁さえも。


全部、中毒的。


彼は、まさに椿だった。


























END
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