雲雀家


※娘捏造(チャット派生タイプです)



「パパ」

母親譲りの澄んだ鈴声。
振り返ると、半開きの襖から娘がひょっこりと顔を覗かせていた。

「ああ、おはよう」

着替えの途中だった雲雀は、上着を羽織り手早くネクタイをしめる。黒塗りの仕事着とは違う墨色のスーツ、紫紺にストライプの入ったネクタイ。娘の入学式に出席するためにと妻が買い揃えたものだ。

「着替えは済んだの?」
「うん」

全身鏡越しに、娘の顔が見える。今だ襖に張り付き、雲雀の方を何か物言いたげにじっと見詰めているのだ。
黒髪のかかる白い頬を、ほんのりと色付かせて。

「どうしたの?」
「ううん、」
「制服に着替えたんだろう?見せてよ」

畳に腰を下ろし、娘へ向かって手を差し出す。

「おいで」

言うが、娘はなかなか襖から離れようとしない。もっと正確に言うなら、行きたいが行けない、そういった風のじれったい雰囲気を纏わせ、もじもじと上目遣いを送ってくる。

普段なら、呼べば飛びついてくるような娘だ。あきらかに様子がおかしい。まさか体調が悪いのでは?それなら蒸気した頬にも納得がいく。
今日は大事な日だというのに。
心配になった雲雀は、腰を上げ娘がいる入口の方へと足を向けた。

「もしかして、気分が悪いの?」
「ちがう、よ」
「なら、出ておいで」

襖を挟み、しゃがみ込んだ。
ほら。と、もう一度手を差し出す。
じっと見詰めれば、居心地が悪そうに身じろぐ娘。組んだ両手を持て余す。
どうやら本当に体調が悪いわけではないらしい。それに安堵しながら、雲雀は辛抱強く待った。
こういった一面は、娘が生まれてから身についたものだ。


「・・・・」

ゆるり、観念した娘の手がゆっくりと伸ばされる。
それを受け取り、雲雀はその小さな体を引き寄せた。
やっと襖から姿を現した娘は、新品のセーラー服姿。今日からピカピカの小学一年生だ。


「うん、似合ってるよ」

思わず顔が綻ぶ。
へええ、と気恥ずかしそうに娘。制服姿を父親に見せにきたはいいが、いざとなると照れ臭くて出るに出てこれなかったのだろう。

「これね、自分で結んだの」

そう言って、少し曲がった胸のネクタイを誇らしげに見せてくる。

「上手じゃないか」
「うん。でも髪の毛はね、哲なの」

父親の返答に満足し、娘は大きな眼をキラキラさせる。
耳上のツインテールの先をそれぞれ掴み、どう?と、言わんばかりに首を傾げて見せた。
自慢の髪留めは草壁お手製、ヒバードを見立てたマスコット付きだ。

「可愛いね」
「髪留めが?」
「違う。君がだよ」

膝に座らせた娘の額に、コツンと自分の額を合わせる。
目に入れても痛くない愛娘も、今日から小学生。いつまでこうしていられるだろう。先の成長を思うと、嬉しいような、寂しいような。




「あら、どこのバカップルかと思えば」

不意に、背後からそんな声。
二人揃って振り向けば、そこには美容室帰りの妻が。
長い髪を後頭部で纏め、紅藤色の訪問着を身に纏っている。
どうやらこちらも支度が済んだようだ。
ひしと抱き合う夫と娘を前に、瞼を半分伏せ紅をさした唇で綺麗な弧を描いている。
呆れた、そう言うわりには随分穏やかな表情だ。


「さぁ、哲が車で待っているわ。ランドセルは持ったの?」
「まだだよ。今とってくる!」

父親の膝を抜け出すと、娘は一目散で私室にあるランドセルの元へ。
そんな後ろ姿に、両親の口元からは自然と笑みが零れた。



Dianthus


「この間、生まれたばかりだった気がするのに」
「・・・・・・・心配?」
「君に、よく似ているからね」
「言っておくけど、あのお転婆はあなた似よ」
フリリクで頂きました!
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