余計な物は切り捨てて。
ただ、彼女を守ることを。
考えて。
……考えて。
彼が持ってきてくれた私の荷物は、普通の人よりも小さめの鞄。
どうしてこれが私の旅行用鞄だとわかったのだろうかと首を傾げた。
元々親とは別居していて、家には誰もいない。
母親が再婚して、私は居場所に戸惑い、結局一人になることを選んだ。
別に母親が嫌いな訳ではない。
ただ、邪魔をしてはいけないと思った。それだけ。
母親は寂しそうな顔をして、再婚相手の人は自分に非があるのかと私に聞いてきたが、二人とも勘違い。
ただ、私が馴染めないだけ。
せめて高校は、一人の時間が欲しかっただけ。
だから逆に、今の状況に戸惑っているのだ。
未だに詳しくはわからないが、私が狙われていることは事実で、ここでよくわからないまま動けば私だけでなく、友達にもあの恐怖が降りかかるかもしれない。
それだけは、回避したかった。
「失礼します。凪さん」
襖からリーゼントの頭が出てきて私は驚きながら、後ろへ後退る。
そんな反応が慣れているのか、彼は早々に頭を下げ、礼儀正しく自己紹介をした。
「草壁と申します。恭さんの部下とでも言いましょうか」
その丁寧な物腰に、不安だった心が少しずつ溶けて、私は息を吐いた。
安心した様子が伝わったらしく、草壁さんも少し表情を柔らかくしていた。
「何かあれば私に何なりと。それが恭さんの言い付けですから」
「あの……」
「はい」
「私、何をすればいいですか……?」
私の問い掛けが意外だったらしく、暫く草壁さんは固まっていた。
私がどうしようかと思っていると、どうやら現実に戻ってきた模様。
「何もしていただかがなくても……」
「落ち着かなくて…」
一人暮らしなため、家事洗濯炊事をこなしてきた私は、すでに趣味のようになってきていて、今更取り上げられると返って暇になってしまうのだ。
草壁さんは少し考えると、“恭さんに聞いてきます”と言って立とうとしたのを私は慌てて止めた。
「め、迷惑にっ…」
「滅相もない。遠慮なさらずになんでも」
私は何度も首を振る。
私を見る彼の目が、疑問を問いかけた途端に一気に責められるような目になって、悲しい表情をさせてしまい、迷惑となってしまった。
あんな顔…させたくない。
悲しませたくないと思っているのに、私自身が彼を苦しませていてはどうにもならない。
「…私、やっぱり帰ります」
「凪さん!?」
立ち上がった私は持ってきてくれた鞄を手に取り、歩き出す。
草壁さんが何か言っているようだが、耳に入らなかった。
結局、私はいらないの。
どこにも居場所なんて、ない。
「私は、いらないから」
「そんな…」
「本当。居場所なんてないの」
「それは大きな勘違いだよ」
その低い声に怯えながら視線を向けると、そこには彼が立っていた。
私に近寄ると、鞄を持った手を軽くペシン、と叩いた。
鞄がドサリと畳に落ちる。
「いらないなら、跳ね馬や六道骸はどうしてここまでキミを気にかけるんだい?」
「…でも、二人とも今はいないわ」
「馬鹿な子。キミを巻き込まない為に身を隠したってことがわからないの?」
そのキツイ言葉に、私は初めて知った事実に硬直した。
彼は軽くため息をついて、私を見据えては視線で座布団に座らせる。
逆らえないとばかりに身体は動いて。
「跳ね馬達がいなくなったのは、キミに迷惑かけたと思ってるから。大事にされてるんだよ」
「……っ」
「自分を傷付ける人間なんて、僕は興味ないよ」
必要としてくれる。
居場所をくれる。
彼が言うだけで、涙が止まらないのは何故だろう。
涙を見て少し困った顔をして、彼は私に視線を合わせる。
触れることは、まだ躊躇いがあって。
「…キミはどうして、泣くの」
「……ごめ、なさ…」
「僕は、泣かせてばかりだ」
あぁ。
ダメだと、彼を傷付けるとわかっているのに。
腕を伸ばして、その手にしがみついて泣いてしまいたいなんて、思う私がいる。
いつからこんなに、私は弱くなったのだろう。
どうしてディーノや骸様は、彼は私をここまで守ろうとするのだろうか。
重要なデータとは、なんなのだろうか…
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