弱いところなど、見せるつもりはなかった。
しかし彼女は、どこからかほころびを見つけ出しては指で糸をかいつまんで、引っ張ってしまう。
偽りの強がりで編み込まれ、形を保っていた布は崩れ、大量の糸に戻ってしまった。
僕も、いつかそうなるのだろうかー…
うっすらと目を開けると、真っ白な視界に思わずもう一度目を閉じる。
しかしぼんやりしていた頭は理性を働かせ、私に覚醒を促した。
その命令のまま視線を動かせば、その真っ白な存在が強い朝日だと認識した。
いつの間に眠ったのだろうか、そもそもいつ布団に入ったのか定かではない。
とりあえず起き上がろうと思い、上体に力を入れるが、何かに阻まれてほんの少し上がった身体はそのまままた布団につっ服した。
何事だろうかと視線を上げて、思わず悲鳴が出そうになるのを急いで手を口にあてて阻止する。
どうして彼が?
視線の先には彼の端正な顔立ちがいきなり視界一杯に入り込んできて、しかも普段からは想像出来ない綺麗な寝顔があった。
しかも自分の腰に、後頭部にはしっかりと、おそらく彼の手が巻き付かれていて、身動きが取れないのだ。
いくらかもがいてみたものの、無意識の力の強さはさも強いもので、私に振り払う力はなかった。
と、いうよりは、出来なかったというほうが正しいかもしれない。
「……どう、して」
起きないことを確かめて、そろりと少し背を伸ばして彼の顔を覗いてみる。
綺麗な面立ちにほんの少し、きっとほとんどの人が見逃してしまいそうなほどの涙の痕を見つけて、昨夜のことを思い出す。
あぁ、私も泣いたんだ…
彼の悲痛な叫びが聞こえたような気がして、その気持ちが自分をも悲しみに支配して。
押さえきれなくなって、彼に問いつめた。
そして聞いた。
『こんな貴方に、自分は何をすればいいのだろうか』
その返事は言葉ではなく、行動として現れた。
抱き寄せられて、私の肩に頭を預ける彼の身体が微かに震えていて、唇を噛み締めて必死に何かに耐えている彼を、こらえきれなくなった私は抱き締めたのだ。
赤子を、あやすかのように。
泣かないのなら、せめて彼の変わりに泣こうと思った。
私から流れた涙で、彼から涙がなくなっていけばいいのに、なんて馬鹿なことを考えながら。
二人で、ひっそりと悲しみあった。
今は既に出ていない涙を拭うように、彼の瞼に人差し指を添えると、彼の身体が震えた。
そしてゆっくりと、目が開かれる。
「……」
「…あ、雲雀、さん?」
「………?」
「おはよう…ございます?」
恐る恐る聞いたせいでつい語尾が疑問系になってしまったが、彼は段々と意識がはっきりしてきたようで、いきなりの私の出現に驚いていた。
未だに硬直したままで。
「…どうして、ここに?」
「あ、昨日…その…雲雀さん、離してくれなくて……」
彼は拘束されている頭と腰のことを見ると、どうやら昨夜のことを納得したらしく“あぁ、 ”と呟いた。
このまま離れるかと思っていた私の予想は裏切られ、彼は私の頬に、私と同じように人差し指で触れた。
「真っ赤」
「……っ」
「冷水持ってきてあげるから目、閉じてるんだよ?」
そのまま手のひらで私の視界を隠したかと思えば、ゆっくりと布団からすり抜けて部屋を出ていった。
私は触れられたところに自分の指を這わせながら、よくもわからないため息を溢す。
「……」
優しさを向けられれば、人間誰でも嬉しい。
でも今の彼の優しさには、逆に距離を感じて落ち込んでしまう自分がいた。
何故そう思うのかすらわからなくて、ただ心が重くなった。
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