私を見て、嵐の人はさらに顔を険しくさせる。
何かマズイことを言ったのだろうかと心配になり、それ以上言葉を紡ぐことが出来なかった。
「雲雀、って」
「どうして凪ちゃんが雲雀さんを?」
「あ…助けて、貰って…」
するとハルは驚いた顔をする。
嵐の人はどこか落ち着いたように表情をほんのすこし柔らかくさせた。
その行動の意味は、私にはわからなくて。
「雲雀さんに惚れたとか言わないで下さいね!ハルは泣きますよ!」
「え?」
…話がずれてる…?
私はただ、学校での彼の存在を聞きたかっただけなのだが、ハルはそれすら何やらあからさまな方向に勘違いしてしまっている。
どうしようかと悩んでいたら、意外にも嵐の人が私に話しかけてきてくれた。
「雲雀と話したのか?」
「…うん、」
「アイツ、いつも通りだったか?」
「…嵐の人…?」
どういう意味、と聞こうとしたら、それすら拒絶されたかのように私から離れていった。
いつも通りって…どういうこと?
やっぱり、私と彼は何かあるんだと、心のどこかで確信する。
嵐の人が確かめるように、そしてはぐらかすように言ったのは何かしら知っているからだ。
「…私と、何があるの…?」
「おい、テメェ」
屋上でうとうとしていると、急に下から声が聞こえてきた。
急にと言っても、すでに廊下に響く足音から推定していた人物だったので、特に気にもしなかったのだが、どうやら向こうは僕に用があるらしい。
「…キミが一人でここに来るなんて珍しいね」
「お前、アイツと接触したのか」
「…どうして知ってるの?」
アイツ、なんて誰だか聞かなくてもわかる。
しかし、彼は僕の事情なんて知らないハズだ。
「キミは何か吹き込まれたの?」
「跳ね馬と六道の野郎が行方不明ってのが引っかかる」
「……」
「あと、テメェがらしくもなくアイツを庇ってる。跳ね馬と師弟関係のお前の行動もおかしい。なら、なんかあるんだろ」
相変わらず、鋭い男だと思う。
今ほど、厄介だと思ったことはない。
しかし、彼はボンゴレの中ではかなり利口な部類だ。
「キミはそこまで他人に干渉するような人物だとは認識してないけど」
「あぁ、俺も干渉する気はねぇよ。ただ十代目にご迷惑をかけるなら、黙っちゃいねぇ」
「それなら尚更だよ。沢田には言わない方がいい」
彼は優しすぎる草食動物だから、絶対に首を突っ込むに決まっている。
あの目には、今自分が隠していることを力で押し通す強引な手は使えない。
「…ということは、やっぱりなんかあるんだな。アイツ」
「彼女は悪くないよ。僕に責任があるだけだ」
「…ケッ、らしくねぇな雲雀」
ほっといてよ、と呟くと足音が遠ざかっていくのがわかった。
あの様子なら、沢田に打ち明けることはまずないだろう。
何より沢田を敬愛する彼は、この話に沢田が踏み込めば危険が降りかかることを知っているのだろうから。
「…全く」
らしくない。
それは僕が一番わかってる。
わかってるから、わかっててどうにも出来ないから、もどかしくて腹がたつ。
彼女を見る度に、自分が罪を許して貰えるんじゃないかって淡い希望なんて持ってしまう。
こんなことじゃいけないのに。
「…誰でもいい」
お前が悪いんだって、僕に知らしめてよ。
結局雲雀さんについて情報を得たのは、並盛最強だということが主だ。
とにかく周りからは彼は怖がられていて、それが私にはわかるようなわからないような曖昧な感覚に捕らわれる。
「…はぁ」
この距離が、彼が引いている一本のラインから、動くことが出来ない。
私は、その先に行きたいのに。
強い殻をすり抜けて、頑丈な鎖に絡まれた彼に、触れたいのに。
彼はそれを拒み、否定する。
「…迷惑、だよね……」
ついこのあいだ会ったばかりの他人に深入りされて、いいハズがない。
尽きないため息を吐いた私は、ピタリと止まる。
「こんばんはぁ。お嬢さん」
「…っ!」
そこには、この前私を襲った黒ずくめの人が立っていた。
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