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取り敢えず、添えた手で頬を撫で、ゆっくり上へ移動させて柔らかく彼女の髪を梳く。


毎回毎回どうすればいいかわからず、所在なさげにうろつくこの手が格好悪くて嫌いだ。



唇に付いた彼女の口紅を手の甲で拭う。その行動を彼女は、自分が拒絶されたようで嫌いだと言う。彼女を悲しませたくないけれど、中途半端に口紅の付いた唇で人前に出ること流石に恥ずかしいと思う。人間には、羞恥心というものがあるのだ。



「きょー、や。」

涙目の上目遣いで僕を見る凪。
赤く染まった頬は長かったキスの余韻に浸っている。

「…ち、窒息、するかと、思った…!」

「恋人とのキスで死ねるなら本望でしょ。」


凪を壁に追いやり、壁に手をついて彼女を両腕に閉じ込めたまま笑ってやった。


「…ずるい。どうして恭弥はそんなに余裕なの?」
わたしは恭弥がいるだけでどきどきするのに、と。


「可愛いこと言ってくれるね。」


ほら、余裕じゃない。と頬を膨らす仕草が可愛くて。


違うよ。僕は余裕なんかこれっぽっちもない。そう見えるよう頑張っているだけだ。精一杯余裕に見えるように張った虚勢に気づかないでいてよ。事実、キスした後は恥ずかしくてどうしたらいいか分からなくて、パニックになるのだ。


「恭弥?」


「ねえ、凪。」



閉じ込めた彼女の瞳を真っすぐに見る。

彼女が耐えきれない、という風に目をつい、と逸らす。

「凪。もう一回、キスしようか?」


凪は驚いたように僕を見て、口をぱくぱくさせる。


「や、よ。」

「どうして?」


彼女が拒否するとは思わなかったから僕も少なからず動揺した。

「だって、きょーや、あんまりキスしたら調子に乗るもの…。」



ばれたか。じゃなくて、いつまでたっても初な彼女に嘆息する。

彼女の強い願いで、手を出したことはないし(危うく出しかけたことはあったけどさ)、キスだって舌を使わない軽いもの。いい加減、この関係を始めて5年。一歩くらい、前進したっていいじゃないか。



「ねえ、凪。いつになったら、」
「恭弥。」

僕の言葉を遮るように凪は言った。

「こんな女を愛してどうするの?」
「どう、って…」
「だって、わたしは生きてないし、あなたの子供を産むこともできない。」


そんなこと、僕は全く気にしていない。子供が欲しいわけでもない。ただ、そんなことはどうでもいいから彼女を僕に繋ぎ止めたいだけなのだ。僕が彼女を求めるのは、別に子供が欲しいからでも、快楽を知りたいからでもなく、ただ、彼女を僕のものとする決定的な証拠が欲しいからなのだ。



「そんなこと関係ない。僕は君が好きすぎるだけだ。」


君の罪は僕の愛に気付かないこと。僕の罪は君を愛しすぎること。







Empty girl,Kiss me Again,Again,Again


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