7.Sorry.You should go to the sofa.

「一晩で手を打つよ。」
オレの作った部屋は最初はクロームしか住む予定じゃなかったから、色々な物が足りなかった。
骸が一緒が良いと言い、ならオレ心配だから一緒にいるよと言ってしまい、何言ってるの群れるなって言った雲雀さん。
でも結局みんな一緒に住むことになってしまったのだから。
食器、家具、色々困ることはあったけど、中でも一番こまったのが寝室だった。
当然、一人分のベッドしかなかった寝室を前に、どうしようか、とオレは小さく溜息を吐いた。
「改築しなよ。」
「…に、してもさし当たってどうするか、ですよ。困りましたね。」
「半分お前の所為なんだけどね。」
「?」
大きなベッドに腰掛けて、四人でううん、と唸る。
二十分くらい経っただろうか。
最初に音を上げた骸が、ぼすり、とその大きな体をベッドに沈み込ませた。
「もういいじゃないですか、ここで一緒に寝れば。」
「えー!?何言ってんの!」
「骸様がそれでいいなら、私はどっちでも良い。」
「クロームも!もう、雲雀さん!」
「ワオ!凪の隣は譲らないよ。」
「って、もうその気だし!」
ぐしゃぐしゃと癖の付いた後ろ髪を撫でてぐったりと白いシーツに倒れ込む。
あー、もう、ダメだ。
常識の通用しない人間ばかりのこの部屋。なんていうか、カオスってこういうのを言うんだろうな。
もう話題に飽きたのかあくびをして転がり始めた骸の隣で、クロームが雲雀さんに小さく首を傾げる。
「カワノジ?」
「四人だけどね。」
ごろり、四人で見上げた天井は真っ白で、背中を受け止めるスプリングはこんなに体重をかけているのにちっとも軋まない。
まだまだ余りあるベッドは、悔しいが…我ながらなかなか心地が良い。
「ま、いっか…。」
眠たく呟いた声が、柔らかなシーツに吸い込まれる。
午後二時の柱時計の鐘が遠くから小さく聞こえてきた。





柱時計の音にふと睫を持ち上げれば、鬼の形相をした雲雀さんがオレの三十センチ隣を睨み付けていた。
「ひ!ど、どうしたんですか!」
「…どうしたもこうしたもないよ。やっぱり四人で寝るのは却下だ。」
恐る恐る視線を横に向ければ、そこには、可愛い顔で眠るクロームと、幸せそうな顔でそれを抱きしめて眠る骸。
わあ、こうしてると本当の親子か兄妹みたい!可愛いなあ…じゃ、なくて!
わなわなと震える両手にはいつのまにやらギラギラと輝く獲物。
もちろん、突き刺さるような視線は、大きい方の南国果実に注がれている。
アーメン、骸。クロームを抱えている今はまだ咬み殺されはしないだろうが、起きたらタダじゃすまないだろう。
「ま、まって下さいよ!雲雀さん!こういうのって、不可抗力っていうか、」
「問答無用。君の躾がなってない所為だ。」
「えー!?オレ?」
どうやら怒りの矛先を違えてしまったらしい。
いつもの好戦的な空気を纏った彼には、どう考えたって勝てる気がしない。
あぁもう!早く起きて!なるべくクロームが先に!
心の中で叫んでも聞こえるはずもなく、もぞりと一層近づいた互いの距離に、雲雀さんの怒りのボルテージは爆発寸前だ。
「…一晩で手を打つ。君、怪我したくなかったら今夜はソファで寝ることだね。」
「ひぃ!」
ああ、ごめん、骸!
そそくさと逃げ出した寝室から、どごんという大きな音と、骸の叫び声が聞こえてきた。
明日から眠る順番は、しっかり考えた方が良さそうだ。
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