7.Sorry.You should go to the sofa.

「今日は一人で寝る。」
あれから、微妙に雲雀さんと骸の仲が悪い。
当然前からあまり良いとは言えない間柄だけど、これは酷い。
もそもそと夕食を口に運ぶ骸はそっぽを向くし、無言でご飯をつぎにいく雲雀さんからはどす黒いオーラを感じる。
間に挟まれるオレの身にもなってほしいものだ。多分期待するだけ無駄だけど。
「…ボス、二人、何かあった?」
「あー、うーん…あった、っていうか…そうだなあ。」
重たい空気に耐えかねたのだろう。
クロームが遠慮しがちにこそこそとオレに耳打ちをしてきた。
君の所為だよと言うこともできず、オレは曖昧な言葉で場を濁す。
「骸様…それから、恭弥。」
クロームの小さな声でも十分伝わるくらいの静けさ。
こんな居心地の悪い食卓なんて他にあるだろうか。
クロームの声にさすがの二人も目を上げて首を傾げる。
クロームに向ける感情の何万分の一かでもお互いに持ち合えば、きっとこんなことにはならないだろうに。(しかしそれはそれで、なんだか気持ち悪い気もする。)
「何があったか分からないけど…ボス、困ってる。仲良くしよう?」
「…無理。」
「嫌です。」
鶴の一声も空しく、もう一度互いに顔を背け合ってしまった。
でもオレからしてみればそれも仕方のないことだ。
雲雀さんがクロームを好きなのも、骸がクロームに抱く感情が恋愛感情じゃないっていうのも、オレしか知らないんだから。
「…ボス、」
「うーん…困った、ね。」
いっそ互いに吐き出させてしまうのはどうだろうか。
そうすれば誤解も解け、二人は少しくらい仲良くなるかもしれない!なんというグッドアイディア!
「クローム、あのさ、」
「うん?」
こしょこしょと耳打ちする口元に刺さる視線。
痛い痛い、そんなに睨まなくてもすぐ離れますって!なんでこんなに分かりやすいのに骸もクロームも気が付かないのは逆に不思議だ。
「わかった…。骸様、恭弥…私、今日一人で寝るね。」
「「え、」」
ぱたん、と閉じた客間への扉を呆然と見る二人に苦笑しながら、さてどうやって吐き出させたものか、と頭を掻いた。





遅れて寝室に戻れば、二人の距離はあり得ないくらい遠かった。
「何してんのさ。ほら、寝るよ。」
「なんで僕が雲雀恭弥の隣に寝なきゃいけないんですか。」
「仕方ないだろ、クロームは今日お前達と一緒にいたくないんだって。」
「つまり…仲直りしろってこと。」
「ま、そんな感じです。」
ぶちぶち文句を言う骸を叩いて、仕方がないからオレが間に入る。
骸は壁に向いているし、雲雀さんもドアをちらりと見ながらちいさく溜息を吐く。
正直居心地が悪いことこの上ないが、仕方ない。
これを乗り越えなければ正しいハッピーエンディングは訪れないのだから。
「こうやって、三人で話すのって初めてじゃない?」
「興味ないね。」
「別に話す事なんてありませんでしたし。」
つれない。
寝室に置いた音の鳴らない秒針が揺れる振動さえ聞こえる気がするほどに寝室の中は静寂で満ちている。
あぁ、もう、本当に面倒くさい!こうなったらもう、最後の手段を使うしかない!
「クロームってさ、」
「「!!」」
二人の肩がぴくりと動く。
よしよし、これは引っかかったかもしれない。
「可愛いよね。料理も上手だし、物静かだし。大和撫子って感じ?俺、お嫁さんにするならああいうのがいいなあ。」
「「!!??」」
がばりと先に起きあがったのは骸。
一瞬遅れて雲雀さんがぎらぎらと輝くトンファーを俺の首に押し当てた。
「綱吉くんの浮気者!」
「凪は渡さないよ。」
ぴたり、一瞬時が止まったのを感じた。
互いの言った言葉の意味を脳内で反芻すること三秒。
「…な、に…どういうこと。」
ゆるゆると首に当てられたトンファーから力が抜けていくのを感じる。
骸は今だ泣きそうな顔をしながらこちらをじとりと睨んでいたが(おもしろいから)それは今は放置決定。
呆然と俺と骸を見比べる雲雀さんに、にこりと微笑んだ。
「そういうことですよ、ヒバリさん。」
「…図ったワケ。」
「ま、そんなところです。何か雲雀さん、誤解しているみたいでしたから。」
「…っ、」
騙されたと分かった途端、自分の言った言葉がいかに恥ずかしい物だったかも理解したらしい。
徐々に形の良い耳が赤く染まっていくのを見て、あぁ、この人もちゃんと人間なんだなあなんて思ったりした。
「ちょ、綱吉くん、どういうことですか!説明してください!!」
「あーはいはい、あとでゆっくりね。それより、今から心の準備しておきなよ。」
「え!?何の話ですかあああ!!!!」
骸がちゃんと理解するまではもう少し時間がかかりそうだ。

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