7.Sorry.You should go to the sofa.

「そういうことだから、」
次の日の夜。
「うっ、うっ…しくしく、」
「…うるさい。お前も納得してこうしてるんだろ。諦めろよ。」
「だって、だって!」
うなだれてしくしくと泣く(っていうか、「しくしく」って言いながら泣くヤツ、初めて見た。)骸の頭をべちべち叩きながら溜息を吐いた。まったく、往生際が悪い。
扉の向こうには、クロームと、雲雀さん。
さあ、歯車は全て揃った。あとは、回り始めるのを待つだけだ。





クロームの話は、可愛らしいものだった。
「あのね、ボス、骸様。恭弥が、変なの。」
「あー…うん、そうだねえ。」
「でも、私も、変。」
ぎゅうと握りしめた手。大きな瞳は伏せられて、長い睫がふるりと震えた。
初めて出会った時から変わらない身長や、顔立ちのせいもあるかもしれないけれど、彼女はなんだかオレの中でずっと幼い少女のままのように思っていた。
妹みたいな、そうだな、京子ちゃんのお兄さんが京子ちゃんを大切に思うのと同じような感じなのかもしれない。
だけど、それはどうやらオレの思い違いだったようで、彼女はいつのまにか大人の、おんなのひとになっていたみたいだ。
「恭弥が変だとね、苦しい。ボスや、骸さまが元気がないときも苦しいけど、恭弥の時はもっと苦しい。私は、ボスのために働かなきゃいけないのに。骸さまのために生きなきゃいけないのに。」
「クローム…」
知らなかった。クロームがそんな風に思っていたことも、オレや、骸に対して抱いていた感情も。
ちら、と隣を見れば、やはり少し驚いたような表情をした骸が、眉間に皺を寄せていた。
「…可愛いクローム。」
「?」
骸は一瞬悩むように押し黙り、そしてまた顔を上げた。
「お前は、お前のために生きていいんですよ。」
愛しい人にさようならを言うときのような、小さな子どもを母親が安心させるような。そんな、どちらとも取れるような声だった。
知らず、握ったアイツの手は、びっくりするくらい冷たくて、そして小さく、小さく震えていた。
「ね、クローム。オレや、骸のことは、考えなくて、いいんだよ。クロームは、どうしたい?」
「私、は…」





未だ泣き続ける骸をよしよしと(仕方なく)撫でてやりながら、ドアの向こうを見た。
うまく、いっているだろうか。いっていれば、いいと思う。
「な、もうひとつベット買おうな。」
「…うっ、うっ、おっきいヤツが良いです。」
「あー、はいはい。」
「部屋も別にしてさ、」
「それは…、まだっ認めません…っ」
「…じゃ、そのうちな。」
ぐずぐずと鼻をかむ音に、がちゃりとドアの開く音が重なった。
「あ、」
出てきた影は二つ。
不服げに唇を尖らす雲雀さんの口元。おそるおそる目線を横にずらせば、頬を染めたクロームと目があった。
ゆらり、と二人の間で揺れた手は、しっかりと繋がれていて。
「…そういう、ことだから。」
ぷい、と横に向いてしまった雲雀さんの耳も、信じられないくらい赤く染まっていた。
新しいベッドを買うのも、きっと近い。
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