04.パーティーは同伴で





ボンゴレ主催のパーティにボンゴレの守護者が出席しないわけにはいかないのに、恭弥はそれを拒んだのだという。お得意の「群れるのは嫌い」という確固たる主張のもとに彼は生きていて、信念を曲げることを何より嫌う頑固者だというのも周知の事実。だからボスは恭弥のことはあきらめるものだと思っていたのだけれど。


「クローム、雲雀さん呼んできてくれない?」


パーティが始まる寸前にボスに呼び出され、そんなことを頼まれた。


「え、でもボス、もうパーティ始まっちゃうんじゃ……」


あの恭弥がやすやすと説得に応じてくれるとは思えない。私が眉を八の字に下げると、しかしボスは余裕たっぷりににこりと笑って。


「大丈夫、クロームが言えば雲雀さんもあっさりOKしてくれるから」


一体どこからその自信はくるのだろう。こんなことにも超直感は働くのだろうかと不思議に思いつつ了解の意を伝えて部屋を出る。その間際、クローム、と呼びとめられた。


「そのドレス、よく似合ってるよ」


優しく笑うボスに私も微笑みを返した。今回のためにとボスがわざわざ私に贈ってくれたものだったから、そう言ってもらえてほっとする。ありがと、とはにかんで今度こそ扉を閉めた。




*****




「なんて恰好してるの」


開口一番、恭弥は不快感を露わにしてそう吐き捨てた。「胸もと開きすぎ、裾は短すぎ、なんでそのうえでスリップ入ってるの? ああ、背中まで開いて」本棚に手を伸ばしていたところだった恭弥は、腕を組み品定めするように私の上から下まで何度も視線を往復させいらいらと言い募った。内心「可愛い」とか「綺麗だね」とか、そういう反応を期待していたぶんちょっとだけ落ち込んだけど、そんなこと悟られたくなくて私は恭弥から視線を逸らした。


「私のことより、恭弥はパーティに出ないの?」


「きみは出るの」


「もちろん」


「ふざけるのも良い加減にしたら」


視線を鋭くした恭弥がつかつかと歩み寄ってくる。その冷やかな眼光に思わず後退りした私の肩が壁に触れると同時に、顔の横に激しい音をたてて拳が叩きつけられた。ぱらりと落ちる白っぽい欠片。壁であったはずの、もの。


「ねえ、誰か誘うつもりなの? 僕をさしおいて」


「っ、おかしなこと言わないで……!」


見下ろす瞳はどこまでも鋭利だ。光に背を向けているせいで恭弥の表情は陰っていて、そのなかでぬらりと光る黒曜石にどきりとする。すう、と細められたその眼に背筋が震えた。


「そう思われて当たり前でしょ、露出は甚だしいし、さらに首筋まで出して」


「正装してる、だけ、っ!」


問答無用にうなじに咬みつかれて息が詰まる。「やっ……」押し返す両手を恭弥がつかみ、固定する。


「だめ、もうパーティ始まるの、恭弥っ」


「そんなの僕の知ったことじゃない。行かせないよ、こんな見せつけるような格好で」


恭弥は本気だ。どうすれば制止できるのか、太腿を撫で上げる大きなてのひらに鳥肌が立つ。呼んできて、だなんて自分に命じたボスにこのときばかりは恨みごとを言っても良いだろうか。ボスの贈り物であるこのドレスが恭弥の気に障ったのだ、彼にも間違いなく責任の一端はある。


――そこまで考えて、気づいた。ボスの言葉の真意に。


「……なら、ついてきて、恭弥」


囁くように紡いだ言葉に、恭弥が止まる。


「私が心配なんでしょう? だったら恭弥が守ってくれたら良い。違う?」


深いスリットもざっくりと開いた背中も、すべてボスの計算だったのだ。こうなることを見越して凪をよこしたボスはやはりただものではない。……良い意味でも、悪い意味でも。


「……僕に護衛させるなんて高くつくよ」


「じゃあ良いの、私が誰かに触られても」


「いやだ」


あまりの即答に苦笑する。「じゃあ交渉成立ね」恭弥が渋々といった感じで身を離した。(深いところまではいりこんでいた右手の感触がなくなってこっそり安堵)


「……わかったよ、着替えるから少し待って」


つまらなさそうに恭弥はクロゼットに向かう。その間に私はせっかくアップにした髪を仕方なく下ろしていた。可愛らしい蝶々の髪飾りがもったいないが、わざと目立つところにつけられたキスマークを隠すためにはこうするしかない。唇を尖らせつつ恭弥を見やる。


「ねえ恭弥」


「なに」


きゅ、とネクタイを締めながら恭弥がこちらに横目を投げた。そんな彼に軽くスカートの端を引っ張ってみる。


「恭弥が不機嫌になるくらいこれ、似合ってない?」


ボスはああ言ってくれたけどお世辞だったのかもしれない。着替えてこようかなとぼやいていると、恭弥が大きなため息をついた。手首のボタンを閉めながらやっぱり不機嫌な顔をして。


「綺麗だ」


だからこそ誰にも見せたくないんだよ。
君の肌は、見て良いのも触れて良いのも僕だけなんだから。


なんでもないような口調で放たれた台詞に恭弥は天然なのかもしれないと思わずにいられなかった。真顔でそんなことを言われたら、しばらく顔を見られそうにない。


きっと今、私は面白いくらいに真赤だから。

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