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10.あの日、放課後、応接室で
三か月の海外出張を終え、恭弥が日本へ帰って来たこの日。
私はボスに頼まれ、彼をある場所へと連れて行く事になった。






「何、この部屋」

数日前改築を終えたばかりの本部。その一角に新しく設けられたのは、応接室と言う名の恭弥専用の執務室。


「恭弥が少しでも本部に顔を出してくれるよう、ボスが中学の応接室を真似て造らせたらしいわ」
「ああ、どうりで」

見覚えがあると思ったよ、そう言って部屋中をぐるりと見渡し満足気に頷くと、恭弥は黒革のソファーへと腰を落ち着かせた。


「凪、おいで」

言われるままに歩み寄り、その隣へ腰を下ろす。この流れが、何だか懐かしい。
この部屋の雰囲気がそうさせるのか、当時の色々な事を思い出すのだ。
そう、例えば、



「・・ねぇ・・・・・・『どうして、私にキスしたの?』」
「・・・・『君の事が、好きだからだよ』」
「・・正解、」
「随分と懐かしいセリフだね」

告白は唇を奪った後だった。そんなファーストキスの思い出。
ちょっとした出来心で問い掛けてみたのだが、今改めて言われると、くすぐったくて堪らない。再現するように交わしたあどけないキスが、少し癖になりそうだ。



「この部屋、気に入ったよ」
「ボスにそう伝えておくわ」

私をソファーに縫い止めようとする手を、何食わぬ顔でかわす。そういえば付き合い初の頃は、恥じらいからよくこうして拒む素振りを見せていた。
そうすると恭弥は、決まって意地の悪い笑みを浮かべるのだけれど。
ほら、今も。
「なんなら、全部再現してあげようか」
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