「そんな靴で運転大丈夫なの?」
「………恭弥、それ、何度目?」


だから、貴方に会う時に車を使うのは嫌なのよ、今日はどうしても仕方なかったから…とため息とともに不満を漏らす彼女。


「せめて運転中は履き替えて」
「いちいちそんなことしてたら、面倒。じゃあね」


早急に議論を切り上げて帰ろうと、ドアに手をかける彼女の腕を掴む。


「確かにその手のことなんて僕には分からないけれど…」
「ねぇ、恭弥。……疲れてるのよ」


彼女はお願い分かってと言うように、軽く眉根を寄せ、彼の言葉を遮って眼差しで訴える。
視線のわずかな邂逅の後、ドアから手を離し、彼の手をはがそうとすると、逆に少し引き寄せられた。


「凪」
「少しでもあなたの顔が見たかったから、ここに寄ったの、そういう議論はまたに…」
「ねぇ、凪」


さっき彼女が遮ったように、今度は彼が彼女の言葉を遮る。




「想ってるんだよ」




その言葉には全ての意味が含まれていて


心配だなんて言わない彼の


ただ彼の瞳が…


「私、明日、朝早いの」
「うん」
「朝一で帰るから」
「うん。いいよ」


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